5分で分かる WordCamp/ThemeForest GPL 論争の流れ

2013.01.25 | 覚えておきたい | |
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おひさしぶりです、ベージュです。「WordPress を使うなら知っておきたい GPL の知識」の続編を書かないと…と思いつつすっかり時間が過ぎてしまいましたが、今回は GPL ライセンスの解釈に関連して英語圏のテック系メディアなどで話題になっている話についてお届けします。

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The Next Web でも取り上げられ、約2日間で580件のコメントが。

ThemeForest というサイトでテーマ販売をしていた開発者が WordCamp のスピーカーや運営者としての参加を禁じられた、というニュースをご存知でしょうか?多数の関連記事が公開されて騒ぎになっているように見えますが、ここで論点を整理してみたいと思います。WordCamp の運営に参加したい方や、テーマ販売のライセンスについて気になっている方はぜひご一読ください。

ThemeForest(テーマフォレスト)とは

問題となっている ThemeForest は、Envato という会社が運営するデジタルグッズのマーケットプレース。WordPress のテーマ販売で有名ですが、Joomla や Magento のテンプレート、HTML、PSD、BGM 用音楽ファイルといったその他の商品も扱っていて、現在50万人以上のユーザー(購入者、出店者合計)がいるとのこと。

themeforest

運営元の Envato については、Wptuts+ なども含む Tuts+ ブログネットワークの運営元、と言ったほうが知名度は高いかもしれません。月額$19でチュートリアルや eBook にアクセスできる学習コンテンツサイト、Tuts+ Premium なども展開していたり、アプリなどレビューを紹介する AppStorm もこの会社の運営だったりします。

なぜ参加を禁じられたのか?

ひとことで言うと、「GPL に関する WordCamp のルール違反」がその理由です。該当するルールは「スピーカーの選出」に関する以下の部分(原文リンクはこちら)。

スピーカーは WordPress ライセンスを理解し、それに準拠しなくてはなりません。つまり、WordPress から派生したもの(テーマ、プラグイン、WordPress ディストリビューションなど)を配布している場合は、WordPress が与えている自由をその派生物のユーザーに対しても提供する必要があります。単純なライセンス準拠(PHP コードのみを GPL または互換ライセンスにする)だけを採用し、JavaScript、CSS、画像については独占的なライセンスを適用するということはこれに含まれません。100% GPL または互換性のあるライセンスを選択することが条件です。WordPress.org のガイドラインに従ってください。

太字部分がポイントなのですが、ThemeForest 上の販売テーマはすべて上記にある「単純なライセンス準拠」のみを行い、PHP コードのみを GPL ライセンスにしています。つまり、JavaScript、CSS、画像などは GPL ライセンスを採用しないという「スプリット・ライセンス」です。「テーマも GPL ライセンス」にもあるようにこのようなライセンスを適用することは法的に問題ないのですが、WordPress.org コミュニティとしては100% GPL のテーマ・プラグインのみをホスティングしたり、WordCamp に関してもスプリット・ライセンスを支持するスピーカー・運営者・スポンサーを禁止しています。

(※ テーマを販売すること自体は問題ではなく、WordPress.org にも「コマーシャル・テーマ」という 100% GPL の有料テーマ販売サイトを一覧にしたページがあります)

WordCamp を管理する WordPress ファウンデーションの立場としては、ThemeForest で WordPress テーマを販売する際には 100% GPL ライセンスの選択権がなく、スプリット・ライセンスを強制される仕組みになっているというのが大きな懸念点となっているようです。

各方面の反応

この禁止措置を受け、Envato の Collis Ta’eed は WP Daily にブログ記事を公開しました。彼は「法的に問題ないのだし、なぜ禁止されるのかわからない」と以下のように語っています。

WordPress テーマについて、我々のライセンスは完全に GPL に準拠しつつ、クリエイターの権利と自由を保護するものだと思っている。[…] 個人的に、ThemeForest の標準ライセンスが購入者(例: テーマの再販をしたいというホスティング会社)に再配布の自由を与えるのはおかしいと思っている。シンプルな理由としては、大量再販によって元の作品を購入する人の需要が減ってしまうからだ。

一方、The Next Web に掲載されたマット・マレンウェッグの反応はこのようなものでした。

WordPress のガイドラインは ThemeForest が存在する何年も前からある。このルールは、WordPress がトップ100万サイトの17%を占めるまでに成長するほどコミュニティの役に立ってきたと言えるだろう。Microsoft、Google、Adobe などを含む何万という数の企業が、このガイドラインを守った上で WordCamp のスポンサーとなってくれている。

何十万人のクリエイターたちが、作品を GPL として公開する選択をしている。WordPress コアの開発に関わる人達もそうだ。Envato が、作者たちを保護するという口実のもとに自らの商業的利益を保護することなく、人々に同様の選択権を与えてくれることを願う。

どうして意見が食い違っているのか

WordPress ファウンデーション(マット)、そして Envato 側のお互いの長いコメントの応酬を見ても話は平行線だなと思うのですが、そもそも「コミュニティガイドライン」と「ライセンスの法的な解釈」という別々の観点からの意見がすれ違ってしまっているからなのだろうと感じます。

WordPress.org や WordCamp.org が100% GPL 以外のテーマやプラグインを排除しようとしているのはコミュニティの姿勢であり理念であって、法的にどうこうというものではないわけです。とはいえ今では「WordCamp はこういう方針で運営していく」というガイドラインを形作る議論もオープンな場で行われていますし、コアの開発や WordCamp などコミュニティの仕組みづくりに参加することなく「こっちもエコシステムの一部なんだから、仲間に入れてよ。そのブランディングを使ったイベントに参加させてよ」と言っても、基本的な理念の一致がない限りうまく共存していくのは難しそうです。

もちろん、背景にある考え方の共有がないままにルールを押し付けられたと感じる人が増えてしまうの良くないですが、WordPress 公式サイトや WordCamp を通して OSS 活動とオープンソースのライセンスに協力的な開発者や企業を盛り立てていくのは長期的に見てコミュニティのプラスになることだと思います。

「OSS らしい」ビジネスモデルの理想を推進しようとするリーダーの存在

ライセンス関連のあれこれは複雑に感じられるかもしれませんが、WordPress とは切っても切れない重要な部分。こういったできごとを通してコミュニティでの議論や理解が深まっていくのを期待したいですし、それができる環境があるからこそ WordPress のプロジェクトしての強さが今後も持続するのだと思います。

この件で興味深いと思ったのは、マットが一連のルールを通してビジネスモデルの考え方までコミュニティに提示しようとしているということです。保護的なライセンスではなくオープンなライセンスでもビジネスはできる、と、オープンソースの可能性をとことんまで信じている姿勢は受け入れられない人もいるかもしれませんが、実績を通してそれが徐々に広まっていく未来に個人的には期待したいです。


【2013年1月28日追記】指摘があったので背景情報を追加します。A House Divided: WordPress.org, Envato, and GPL Battle という上記でもリンクした WP Daily の記事からもリンクされている「Automatically Blackballed | DesignCrumbs.com」という Jake Caputo 氏の記事によってこの件の議論がスタートしました。Caputo 氏はThemeForest に出品しているテーマ作者です。彼の記事にもマットやコア開発者などのコミュニティメンバーも含めた多数のコメントがついています。

【2016年6月16日追記】ThemeForest を含む Envato Marketplace では現在、100% GPL ライセンスを選択することも可能になっています。詳しくは同サイトのスプリットライセンスと 100% GPL ライセンスについての FAQ ページをご覧ください。